トラブルを回避する遺産分割方法 よくあるNGパターン
目次
前書き
実務として相続を扱っていますと、様々なケースの遺産分割協議に立ち会います。
中には「何でこんなことに、、、」となるような分割をしてしまうご家族もいらっしゃいます。
このページでは、遺産分割協議の参考にできるように、避けたい分轄の事例とおすすめの分轄方法を解説します。
前提知識として、遺産分割の際の財産評価額は、財産評価基本通達によって評価した相続税評価額を参考におこなうことが一般的である旨をご理解の上ご一読ください。
遺産分割協議のNGパターン①
「不動産を法定相続分ごとに共有持分で分轄する」
共有は本当によくある悪い分割例と言えます。
共有持分とすることのデメリットは以下のようにあげられますが、問題が表面化するまではわからないのが難しいところです。
- 共有者が亡くなると、その方の相続でさらに分割することになり収拾がつかなくなる
- 売買や賃貸をしたい場合、は原則共有者全員の同意が必要で手続きが複雑化する
- 不動産の利用や管理に綿密な打ち合わせが必要(その不動産に住む人が住まない人に対して持分相当額の賃料の支払う等)
リフォームすら過半数の同意が必要になってしまうことになるのですが、いくら家族同士であっても、不動産の利用方法や管理方法において全く同意見となることは珍しいことです。争いを避けるためには共有持分は何としても避けなければなりません。
デメリットの一方で、売却時のマイホームの3000万円控除や住宅ローン控除といったものは共有者それぞれで受けることが可能ですので、良く話し合った上で計画的に共有持分にすることはできるでしょう。
遺産分割協議のNGパターン②
「相続税評価額しか見ずに代償分割をする」
オーソドックスな遺産分割の仕方として、不動産や有価証券や動産といった、分けるのが多少難しいものを一括して1人の相続人が相続し、他の相続人に対してはそのかわりに金銭を支払うという分割の仕方があります。
これを「代償分割」と言いますが、私はこの方法が1番の理想系であると思っています。
しかしながら、代償分割の精算をする際の評価額を単に相続税評価額とすると、あらぬ争いが生じる種となりえます。
どういうことかと言いますと、例えば不動産であれば、相続税評価額は財産評価基本通達という国税庁の指針に基づいて評価することとなっています。詳細は省きますが、これは、相続税路線価に各種補正を加えて計算するものです。
相続税路線価というのは、公示価格(不動産の時価と見て良い)の80%の水準で設定されており、実勢価格(実際に売れる金額)よりかは低めに見積もられています。
税務署も税額の基となる不動産の評価をするにあたって、国民から不平不満が出ないように低めに見積もっているということです。
さらに、この手法は鑑定評価とは違いある程度一律で包括的に評価するため、実需がないような地形だったりすると、実勢価格と大幅に乖離することにもなります。
ですから、遺産分割の際に、代償分割の不動産価格をそのまま相続税評価額で精算してしまうと、適正に分けたつもりでも、相続税評価額と実勢価格との乖離によって意図せず不公平な分割となってしまう場合が出てきてしまいます。
こういった事情を織り込んだ上で遺産分割を行わないと、当時は知識不足で納得したものの、損をしたことに後から気づいてしまい、家族間に禍根を残すことになりかねません。
遺産分割協議のNGパターン③
「相続開始日の価格で分割する」
株や投資信託などの有価証券類についても注意すべきポイントがあります。
今回は株式について取り上げますが、まず株式の相続税評価額は、相続人が亡くなった日の終値と亡くなった月、前月、前々月の平均終値の価格を有利に選択して良いことになっています。
つまり不動産と同じように多少安めに評価するわけです。
さて、ここで相続の開始日および遺産分割協議の時期がポイントとなります。
通常、遺産分割協議は相続開始日から10ヶ月程度の間に行われます。
というのは相続税の申告期限が相続発生から10ヶ月までとなっており、これまでの間に分割協議を行い、税金がかかるかを判断し、相続税の申告を行うこととなるからです。
先ほどの株価は、亡くなった日を基準に評価すると説明しましたが、株価は日々変動していますから、その評価の時期と、遺産分割協議時点での実際の株価には変動があると想定できるかと思います。
とくに株式ですと、半年もあれば株価が倍以上、もしくは半分以下に増減することは当然のようにあります。
相続を扱う税理士さんなどはこれらを相続税評価額で分割するように促しがちですが、相続開始日から時間が経っているにもかかわらず、有価証券類の中身を確認せずに分割をしてしまうことは避けた方が良いでしょう。
もちろんこれらを相続人間で良く話し合って、織り込み済みで分割するのであれば何の問題もありません。
ただ、こうした論点を知らないまま、後から分割が平等ではなかったことに気づくと、損をした方はどうしたって心に残ります。
遺産の分割は調査を適正にした上で慎重に行いましょう。
遺産分割協議のNGパターン④
「財産の計上漏れ」
これまでに解説した遺産分割協議のNGパターンは、専門家にお願いしていたとしても気をつけるべきポイントですが、パターン④の「財産の計上漏れ」はとりわけ専門家を入れずに分割協議を考えてらっしゃる方に気をつけていただきたいことです。
財産が漏れてしまうと、その財産については再度遺産分割協議が必要となってしまいます。
預貯金や証券には「全店照会」や「ほふり」といった財産の調査手法がありますが、これとはまた別の計上漏れの原因として、本来相続財産として計上しなければならないものを、知識不足で計上できていないといったケースが見られます。
例えば、漏れがちなものとして、株式の配当金があります。
配当金は決算日に配当することが決定されますが、実際の支払日は決算日から3ヶ月後程度とズレがあるのが一般的です。
このズレの間に亡くなってしまった場合には、配当が決定していたのに貰えなかった配当金として「配当期待権」という形で相続財産の一つとなります。
こうした「何が」相続財産に当たるのか、という判断は、争いを生まない遺産分割協議にとても重要です。
さいごに
いかがでしたでしょうか?
遺産分割協議においてのNGパターンを解説いたしました。
遺産分割協議は後々の争いを生まないよう、相続人同士が深く納得したうえで協議書を作成することが望ましいです。
それには、「何」が相続財産に該当するのか?、財産の評価は適正か?ということを適切に判断していくことが重要であること、お判りいただけたかと思います。
これらの判断には普段から知識取り入れておくことが大切ですから、よくよく勉強したうえで相続対策を進めてまいりましょう。
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